【FX初心者ロードマップ第61話】有事のドル買い・円買いは今も通用するのか?

FX初心者ロードマップ

前回は、事件・事故・天災・テロ・紛争といった「有事」と為替の関係を整理し、リスクオン/リスクオフという資金の流れを見ました。

その流れの中で、昔からよく聞くフレーズが「有事のドル買い」「有事の円買い」です。ところが最近の相場を見ていると、「本当にそうなっている場面ばかりでもないな……」と感じることも多いはずです。

第61話では、このフレーズをいったん分解して、「過去にはなぜ有事でドルや円が買われやすかったのか」「今は何が変わってきているのか」を整理しつつ、FX初心者がこの格言をどんな距離感で扱えばいいのかを解説します。

結論から言うと、「有事のドル買い・円買い」は、もう完全な昔話でもなければ、今でもいつでも通用する絶対ルールでもありません。“条件付きの経験則”としてどこまで参考にするかという視点で、一緒に言語化していきましょう。

有事のドル買い・円買いは本当に“昔の話”なのか?

前回は、事件・事故・天災・テロ・紛争といった「有事」と為替の関係、そしてリスクオン/リスクオフという流れをざっくり整理しました。

有事と聞いて、多くの人がセットで思い出すのが「有事のドル買い」「有事の円買い」というフレーズです。

昔からよく言われてきた言葉ですが、「最近の相場ではあまり効いていないのでは?」「もうこれは死語なの?」と感じる場面も増えてきました。

第61話では、このフレーズをいったんバラして、

・そもそも「有事のドル買い/円買い」とは何を指していたのか。

・過去にはなぜそうなりやすかったのか。

・今は何が変わってきているのか。

・FX初心者は、このフレーズをどう扱えばいいのか。

といったポイントを、歴史の暗記ではなく「考え方」と「使い方」の目線から整理していきます。

結論から言うと、「完全に昔話」でもなければ「今でもいつも正しい絶対ルール」でもありません。

“条件付きで参考にする経験則”として、どこまで使えるのかを一緒に見ていきましょう。

① 「有事のドル買い・円買い」とは何を指していたのか

まず、「有事のドル買い・円買い」という言葉がどんな状況を指していたのかを整理しておきましょう。

シンプルに言えば、

・世界的な危機や不安が高まるとき。

・戦争やテロ、金融危機など「何が起きるか分からない」状況のとき。

投資家が「相対的に安全だ」と感じるドルや円に資金を避難させる動きが起きやすい、という経験則をまとめたフレーズです。

つまり、“リスクオフ局面でドルや円が買われやすい”という傾向を、一言で表現したものですね。

ここで大事なのは、「絶対にそうなる」というルールではなく、「そうなることが多かった時期がある」という意味にすぎない、ということです。

格言っぽく語られると「いつでもそうだ」と思ってしまいがちですが、元々は「ある時代の相場でよく見られた動きの要約」にすぎません。

この“経験則”が生まれた背景を見ていくと、今の相場にどこまで持ち込めるのかも見えやすくなっていきます。

② 90〜2000年代に円が買われやすかった背景

「有事の円買い」というフレーズが強く意識されたのは、おおよそ90〜2000年代の相場です。

この頃は、日本が長期デフレと低金利に苦しむ一方で、その“低金利の円”を借りて他国通貨を買うキャリートレードが非常に盛んでした。

投資家は、円を売って豪ドルやニュージーランドドルなどの高金利通貨を買い、スワップと値上がり益を狙っていたわけです。

ところが、有事や金融不安が起きると、「リスクの高い高金利通貨から一気に逃げたい」という動きになります。

そのときに起きるのが、

・高金利通貨売り。

・円の買い戻し。

というキャリートレードの巻き戻しです。

この「巻き戻し」が一気に出ることで、円高が急速に進むパターンが何度も起き、それが「有事=円買い」というイメージを強くした側面があります。

つまり、

・「円そのものが絶対的な安全資産だから」という理由だけで円が買われていたわけではない。

・「平時に大量に円が売られていたから、その巻き戻しで円高が起きた」という要素も大きかった。

という点を押さえておくことが大切です。

③ リーマンショック以降で変わったドルと円の立ち位置

リーマンショック以降、世界の金融政策や金利水準は大きく変化しました。

アメリカは一時的にゼロ金利まで金利を下げたものの、その後は景気回復とともに利上げサイクルに入り、「高金利通貨」とまではいかなくても、相対的に「金利が取れる通貨」としての側面を強めていきました。

一方、日本は長期の超低金利から抜け出せず、日銀の金融緩和も続いたことで、「円で資金調達して他の通貨を買う」構図はある程度続きました。

ただし、世界全体が低金利環境になったことで、

・「円だけが極端な調達通貨」という構図が昔ほど鮮明ではなくなった。

・ドル自体も、金利差と基軸通貨の地位から「資金の避難先」として一段と意識されるようになった。

という変化が出てきました。

この結果、リスクオフ局面でも、

・ドルが買われるパターン。

・円が買われるパターン。

・両方が買われるパターン。

など、バリエーションが増えていきます。

ここから先は、「ドルと円、どちらが安全資産か」という二択ではなく、「どの国が震源地か」「どの通貨から逃げたいのか」によって避難先が変わるという見方が必要になってきます。

④ 超低金利・マイナス金利で円の“役割”が変化した

もうひとつ押さえておきたいのが、「超低金利・マイナス金利が円の役割に与えた影響」です。

日本では長く「超低金利」が続きましたが、その期間があまりにも長くなると、

・資産運用をしたい人は、どうしても海外にお金を出したくなる。

・年金や保険、ファンドなども、海外債券や株式への投資を増やしていく。

という構図が強まります。

このとき、

・平時は円売り+外貨買いが継続する。

・有事や相場の急落時には、そのポジションを手じまうために外貨売り+円買い戻しが出る。

という流れが起きやすくなります。

結果として、

・「有事の円買い」は、円そのものへの信頼というより、「日本から外に出ていたお金が戻る動き」の側面も大きい。

・日本国内の投資家の動きや、日銀のスタンスによって、その強さやタイミングは大きく変化しうる。

ということになります。

ここまで見ると、「有事の円買い」を単純な安全資産神話として信じるのは危うい、という感覚が少し伝わるはずです。

⑤ 「最近の有事」で本当に何が起きていたかを検証する

では、ここ数年の有事では、実際にどのような動きが多かったのでしょうか。

ここで大事なのは、「ネットで誰かの印象を読む」のではなく、自分でチャートを確認することです。

たとえば、

・地政学リスクのニュースが出た日。

・大きな災害やテロが報じられた日。

・金融システム不安が意識された日。

などを振り返り、

・ドル円、ユーロ円、クロス円はどう動いたか。

・ドルストレート(ユーロドル、ポンドドルなど)はどう動いたか。

を、日足や4時間足くらいで眺めてみます。

この作業を繰り返していると、

・「このタイプの有事では、ドル買いが目立つことが多いな。」

・「このパターンのときは、円買いよりもドル買いのほうが優先されていることが多いな。」

といった、自分なりの“最近の答え”が見えてきます。

有事のドル買い・円買いが「昔話」かどうかは、人から聞くのではなく、自分の目で検証して決める──この姿勢が、ファンダメンタルズとの付き合い方ではとても大事です。

⑥ 「有事だから円高/ドル高」と決めつけるリスク

ここまで見てきたように、有事とドル・円の関係は「時期」「種類」「震源地」によって変わります。

にもかかわらず、

・ニュースを見た瞬間に「有事だから円高に決まってる」と思い込んでポジションを取る。

・「リスクオフだからドル買い一択」と決めつけて、チャートを確認せずに入ってしまう。

といった行動は、とても危険です。

なぜなら、

・マーケットは「すでにそのリスクをある程度織り込んでいた」かもしれない。

・最初のリアクションと、その後の数日〜数週間の流れが違うことも多い。

からです。

格言の怖いところは、「考えなくても動ける気になってしまう」ところにあります。

「有事だから○○」と一瞬で判断してしまう思考パターンから、意識的に距離を取ることが、初心者が大負けを避けるうえでとても重要です。

⑦ 実務での使い方①:シナリオ候補として持っておく

では、「有事のドル買い・円買い」というフレーズを、実務レベルでどう扱えばいいのでしょうか。

個人的なおすすめは、

・「有事にドルや円が買われることは“よくあるパターンのひとつ”として、シナリオ候補に入れておく。」

・「ただし、本当にそうなっているかは必ずチャートで確認する。」

という二段構えです。

つまり、

・有事ニュース=ドル買い/円買いが“候補”に上がる。

・「候補のひとつとして頭に置く」だけで、即ポジションにはしない。

・チャートを見て、実際にドルや円が買われているのか、どの通貨ペアで強く反応しているのかを確認する。

といった使い方ですね。

格言を「スタート地点」にして、「答え」にはしない──これだけでも、だいぶ安全度が変わります。

⑧ 実務での使い方②:チャートの反応で優先順位を決める

もう一歩踏み込むなら、

・ドル円。

・ユーロ円。

・ポンド円。

・ユーロドルやポンドドルなどのドルストレート。

を並べて、「どこでいちばん素直にリスクオフの動きが出ているか」を比べてみるのも有効です。

たとえば、

・ドル円よりも、ユーロ円やポンド円のほうが大きく下落している。

・ユーロドルやポンドドルはあまり動いていない。

といったケースなら、「今回は円買い(クロス円下落)が強く出ている」と解釈できます。

逆に、

・ドルストレート(ユーロドルなど)が大きく下落している。

・クロス円はそこまで動いていない。

というなら、「今回はドル買いがメインの反応になっている」と考えられます。

このように、「どの通貨ペアでリスクオフが一番素直に出ているか」を見て、トレード候補を絞るという使い方をすると、「有事のドル買い・円買い」が単なる言葉遊びではなく、実務的な判断材料になります。

⑨ FX初心者が持つべき“格言との距離感”

最後に、「有事のドル買い・円買い」に限らず、相場の格言全般との付き合い方について触れておきます。

相場の格言は、

・過去のある時代、ある相場環境で、うまく機能していたルールや傾向を。

・短い言葉で覚えやすくまとめたもの。

にすぎません。

時代が変わり、金融政策や市場構造が変われば、当然そのままでは通用しない部分も増えていきます。

だからこそ、

・格言は「考えるためのきっかけ」として使う。

・本当に機能しているかは、自分でチャート検証して確かめる。

・「いつでも正しい絶対ルール」とはみなさない。

という距離感が大事になります。

「有事のドル買い・円買い」という言葉を、あなたがどう評価するかは、あなた自身の検証次第です。

そのプロセスを楽しめるようになると、ファンダメンタルズとの付き合い方はぐっとラクになっていきます。

まとめ|「有事のドル買い・円買い」は“候補シナリオ”として冷静に扱う

第61話では、「有事のドル買い・有事の円買い」という有名なフレーズを題材に、その背景と今の相場での扱い方を整理しました。

そもそもこの格言は、90〜2000年代に円を売って高金利通貨を買うキャリートレードが盛んだった時期に、有事や危機が起きるとその巻き戻しで円高が起きやすかったこと、そして基軸通貨であるドルに資金が集まりやすかったことから生まれた“経験則のまとめ”でした。

しかしリーマンショック以降、世界的な低金利や金融政策の変化により、ドルと円の立ち位置は変化し、

・ドル買いが中心になる有事。

・円買いが強く出る有事。

・ドルと円の両方が買われるケース。

など、パターンはかなり多様になっています。つまり、「有事=必ずドル高/円高」と決めつけて飛びつくのは危険だということです。

実務レベルでは、

・有事ニュースが出たら、「ドル買い/円買い」は“よくある候補シナリオの一つ”として頭に置く。

・そのうえで、ドル円・クロス円・ドルストレートを並べて、「どこで一番素直にリスクオフの動きが出ているか」をチャートで確認する。

・過去の有事局面のチャートを自分で検証し、「最近の相場では実際どうだったのか」を自分の目で確かめる。

といったステップを踏むことで、格言を「考えるためのきっかけ」として活用できるようになります。

相場の格言は“信じるもの”ではなく、“検証して使い方を決めるもの”です。「有事のドル買い・円買い」も、その一つの材料として冷静に扱っていきましょう。

次回からは、有事という大きなテーマから一歩進んで、いよいよ「経済指標と市場予想のギャップ」が為替にどう効いてくるのかというテーマに入っていきます。単なる“結果の良し悪し”ではなく、「予想とのズレ」に注目して指標を見るコツを、一緒に整理していきましょう。

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本記事の内容は、筆者の個人的な見解であり、特定の通貨ペアや金融商品の売買を推奨するものではありません。

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